不動産業界が抱えていた課題に気づいた日
東大阪で小さな町工場を営んでいた私は、2010年のリーマンショック後、周りの多くの企業と同様に不景気の中で経営に苦しんでいました。
お客様のところに行っても「こっちが仕事ほしいくらいだ!」などとよく言われます。
東大阪の企業は小規模なところが多く、部品の製造の下請け業が多いのが特徴です。
そのため大きな会社が不況になると、余波をもろに食らってしまうのです。
私はその状態から脱却しようと、新規事業に挑戦することにしました。
昔から夢見ていた、全国展開できる仕事。
下請け業ではない、自分たちで作り上げる仕事。
そんな前向きなチャレンジをしたいという思いから、事業のアイディアを探し始めたのです。
新規事業を考え始めてから数ヶ月経ったある日、取引先から「塗料を使ってローコストでマンションのリフォームができたら面白いね」という話をいただきました。
当時「とにかく何でもやってみよう」と考えていた私は、その言葉にピンと来て、塗料によるリフォームに挑戦することにしました。
不動産会社の知人に相談して、賃貸マンションのワンルームのリフォームをさせてもらったのが始まりです。
完成すると驚くほどに好評で、それまでなかなか入居者が決まらなかった部屋が、たったの2週間で埋まってしまいました。
この結果にびっくりした私は、何が理由なのか、冷静に分析することにしました。
すると、不動産業界が抱えるさまざま課題がわかってきたのです。
多能工によりリフォーム費を大幅削減する仕組みを完成
まず賃貸住宅では、入居がなかなか決まらない部屋が多数あり、困っているマンションオーナーがたくさんいることがわかりました。
その当時、不景気と人口減、それに個人の好みの多様化によって、新たに貸し出すために部屋の現状回復工事を行うだけでは、入居者が決まりにくくなっていたのです。
その少し前から、今風の部屋に改造するリノベーション工事も流行りはじめていましたが、それには多額のお金がかかります。
リノベした部屋に入居が決まっても、実質的なオーナーの経済的メリットはほとんどないことも分かりました。
その実態を知った私は、「なるほど、賃貸住宅オーナーに低額のリフォームで、入居者が決まりやすい工事をすれば、きっと満足してもらえるはずだ」と考えました。一方で工事を請け負う職人は、当時の政権が進めていた「箱モノから人へ」という政策によって日本全体で建築工事の件数が減少し、仕事がありませんでした。そこで私は、「賃貸住宅オーナーと建築職人をつなげることができれば新規事業になる」と考えたのです。
しかし、単純に自分がよく知る地域のオーナーと職人をつなげるだけでは、全国展開できる大きなビジネスにはなりません。そこで展開しやすいように、ビジネスの「仕組み化」を考えました。
まず賃貸住宅オーナーには、入居者が決まりやすくなるよう、差別化したデザインを低予算の塗装によるリフォームで実現できるようにしました。
塗装の良さは、クロスと違って質感が優しいこと、それに多色化展開できると言うことです。
それに加えてマスキングなどで模様を入れるデザインを開発し、塗料自体にも抗菌・消臭などの機能性を持たせることにしました。
価格面では、「一人多能工」が工事を請け負うことで、低コスト化することを考えました。
一般的に建築業は、工事の多くが分業化されています。
ワンルームの小さい部屋のリフォームでも、クロス貼り・塗装・床張り・ダイノックなど、すべて違う人間が施工するのです。
私はもともと製造業を手掛けていたので、そのことに違和感を感じていました。
一人の多能工が工事のすべてを行えば、人件費も少なく済み、無駄なくコストを下げることができます。
それを可能にするためには、多数の多能工の職人を養成することが必要です。
逆に言えば、「それができれば、このビジネスは成功する」と確信したのです。
そうして完成した仕組みが、塗料を用いて一人の多能工が差別化リフォームを行う、賃貸住宅専門のローコストリフォームです。
名前は「ルームリファイン」と名付けました。
ルームリファインを全面に打ち出し、私とスタッフで営業を始めると、予想どおり顧客の評判も良く、受注件数は右肩上がりで増えていきました。
一人多能工の職人を養成する学校として、「ルームリファインスクール」も立ち上げました。
そこでは工程やデザインをパターン化することで、1週間で学べるローコストリノベーションのすべてが学べるカリキュラムを提供します。
前述した不景気もあり、このスクールも順調に入学者数を伸ばし続け、現在までに総勢200名弱の卒業生を輩出するまでになりました。
しかし、スクール運営だけでは、まだ課題が残りました。
それは、たくさん受講していただいても、職人がそのスキルで仕事が取れない、つまり営業力がなかったのです。
私はその課題解決のためにも、新たな仕組みを考えなければならなくなりました。
戸建ての再生でわかった古家の持つ大きな可能性
さらに転機となったのが、あるお客様からの問い合わせでした。
それまで、お客さまであるマンションオーナーのほとんどは、空室が多いワンルームマンションの所有者でした。
しかしある日、「戸建(長屋の1戸)のリフォームをルームリファインでやってもらいたい」という依頼があったのです。
知人からの紹介だったこともあり、戸建ては初めてでしたが、何も考えずに依頼を受けました。
リフォームを行ったのは、築40年の古い木造住宅でしたが、工事を行うと、見違えるようにキレイになりました。
見た目が格段に良くなったことで、古くて長年借り手が見つからなかったその築古戸建は、リフォーム後なんと2週間で入居者が決まったのです。
しかも通常のリフォームよりずっと安く済んだことから、オーナーにも大いに喜んでいただけました。
私は工事だけでなく、その物件の入居付けの営業を、頼まれてもいないのにサービスで行っていました。
そのため、入居した方から、借りることを決めた理由を、直接聴くことができました。
「戸建賃貸は、マンションやアパートと違い、共有部がないので使い勝手がいいんです。
それで探していたのですが、ほとんどの戸建貸家は、賃料が高いか、ボロボロの古い物件ばかりでした。
でもこの戸建は家賃が手頃な上に、デザインもシックで落ち着いていたので、見つけてすぐに決めました」と、その入居者は喜んでいました。
お部屋を紹介する不動産担当者にもヒアリングすると、「低家賃で戸建に住めるのは、顧客にとっても非常に魅力的な選択肢だと思います。
そもそも貸家は少ないですから、マンションやアパートに比べて競争力があります」と言われました。
それらの声から、私は次のことに気づきました。
今の日本には、築古戸建を持て余して困っているオーナーが沢山いること。
しかしそれらに差別化リフォームを施せば、マンションよりも入居者が決まりやすいこと。
そして何より、低予算で築古戸建をリフォームをすることで、オーナーにとっての資産性(貸し出した際の利回り)を高めることができるとわかったのです。
「このビジネスは日本全国に需要がきっとある」と、大きな可能性を感じました。
自らオーナーになり顧客視点でサービスを構築
そこで私は仮説を実証するために、自ら戸建を買って、オーナーになってみました。
顧客側に立って自社を見つめなおすことで、よりお客様のニーズが理解できると考えたからです。
実際に、顧客側に立つといろいろなことが見えてきました。
まず顧客からすると、リフォーム工事は目的ではなく、借り手を集めるための手段に過ぎないことに気づきました。
オーナーはあくまで、「家賃収入を得るため」にリフォームをします。
費用をかけて素敵なリフォームをしても、入居者が決まらなければ意味がまったくありません。
一方で、工事業者の多くは、「いいリフォームを提供すれば、オーナーの満足が得られるはずだ」と思っています。
実際には、そうではなかったのです。
ここに意識を向けられたのが、顧客視点でビジネスを構築する上で、最大のポイントになりました。
知人に頼まれマンションを購入したこともありました。
築古の1DKのマンションでした。
購入して普通にリフォームして入居者募集を始めてもいっこうにお客が入らない。
不動産業者に相談すると「築古だから、難しい。早く売却した方がいい」と言われ、工務店からは「もっとお金をかけてリノベーションしないとダメですよ」と言われました。
お金がないので、仕方がなく自分でリフォームを工夫し、自らたくさんの不動産業者を何度も訪問して、やっとのことで入居者が決まりました。
しかし、それまでにかけたコストを考えると、大きな利回りにならないことが分かりました。
安くない授業料でしたが、不動産業界の一面を知ることができ、いまは良かったと思っています。
顧客が求めているのは、リフォームそのものではなく、家賃であり、高利回りなのです。それならばリフォーム工事だけでなく、入居付けや、家賃までも考えたサービスにすれば、よりオーナーのお役に立つことができます。顧客の中には、新しく物件を購入することで、家賃収入を増やしたい人もいます。物件を購入する際に、リフォーム工事額や得られる想定家賃がわかれば、購入前に将来の利回りが計算でき、大いにリスクを減らせます。 そこで私たちの提供するサービスでは、リスクが低く高利回りの物件が購入しやすい、築古戸建専門で購入から入居付け・管理までのサポートをトータルで提供することを決めたのです。
さらに多くのお客様から話を聞くうちに、不動産オーナーは意外と「孤独」であることもわかってきました。困ったことが出てきても、気軽に相談できるような知人や仲間がいないのです。
そこで「一緒に不動産の話や勉強をしたり、購入を検討することができる場を提供できれば、多くの人に喜んでもらえるだろう」と考えました。
もう一つ、私自身がオーナーになってみて気がついたことがあります。
それは、我々が投資として行っている築古戸建ての再生が、周辺に暮らす住民の人々からも、とても喜ばれているということでした。
ある時リフォーム工事を始めると、隣りの家に住む高齢の女性が声をかけてきました。
「隣が空き家だと心配で不安なの。
夏は畳も腐って変なにおいも出てたし。
誰かが住んでくれると本当に安心だわ」と言ってくれました。
また別の近所の方は、「やっとこの家に住んでくれるんだね。
町内に空き家が増えると、治安も悪くなりそうだし、いろいろと困るんだ」と教えてくれました。
その声を聴いて私は、「このビジネスは地域貢献・社会貢献になるんだ。
社会に求められているビジネスだからこそ全国展開できる。
しっかりとした仕組みで拡大していこう!」と確信しました。
これが入居者様・オーナー様・工事会社様・地域の皆様、「4方よしビジネスモデル」の完成の経緯です。
古家投資を学んで実際に体験できる場をつくる
その4方よしビジネスモデルの実現のために、私は一般社団法人「全国古家再生推進協議会」を設立し、そこに参加する投資家の方が、安心安全で楽しく学びながら、実践できる仕組みをつくりました。
仕組みの一つは、オンライン講座でしっかりと賃貸不動産投資を学んでいただくシステムです。
もう一つは、実際に現地で古家を見て、投資を検討することを体験していただく見学ツアーの提供です。
全国で実践している「空き家・古家物件見学ツアー」は、築古戸建を見て、その場で専門家が査定し、体験・勉強しながら購入も検討できる仕組みです。
築古戸建の再生の専門家と一緒に物件を見学しながら、家賃・購入額・工事内容・工事額などの詳しい解説つきで、投資シミュレーションが現地でできるのです。
その上、同じツアーに参加された、同じ思いの方々と楽しく会話しながら交流できるまたとない場になっています。
単に購入を検討するためのビジネスの場ではなく、来て、見て、楽しく学べるエンターテインメントに満ちたイベントとなることを心がけています。
一方、参加者に安心安全を担保するために、空き家再生の専門家を教育し、育成していく仕組みも作りました。
工事経験者・関係者を対象に、築古戸建不動産投資の知識と築古戸建に合った、差別化リフォーム工事のノウハウを教育しています。
これにより、工事会社も下請けではない事業として、安定した収益を確保できるようになりました。
2016年5月にサービスを開始してから、現在までに事業は大きく成長しています。
2020年12月時点で会員数は6,083名、毎月約100名以上会員が増え続け、コロナ禍の昨年は190名/月を超える申し込みがありました。
空き家再生数も日本全国で1,355戸を数え、地域も関西から関東・北陸・九州とエリアは広がり続けています。
これだけ短期間に増加している理由は、個人の投資活動と、社会貢献が同時にできる点だと考えています。
少子高齢化による年金の問題が懸念されているなかで、2019年に国が発した老後資金2,000万円問題によって、国民はさらに将来について不安をいだくこととなりました。
政府も「貯蓄から投資へ」と個人の投資活動を支援する政策を進めていますが、低額で継続的な収入になる空き家投資は、その中でも大いに注目されています。
その一方で、SDGsが叫ばれる昨今では、お金儲けだけではなく持続的に社会に貢献できること、他者へ奉仕する喜びが、ますます重要視されるようになっています。
その2つの社会的な要請を、同時に満たすことができる手段として、空き家投資は多くの人々の心に響いたのです。
コロナ過で人々の将来不安が大きくなったことも、会員増の大きな理由の一つです。
4方よし!の仕組みで日本の空き家をなくしていく
ここまで述べてきたように、もともとこのサービスは、東大阪で製造業経営をしていた私、大熊重之が、多能工で安価にリフォームが出来る仕組みを作ったのが始まりです。
最初は一人で、会社の塗料を持ち出し、空き家の内装を自分の手で塗ることからスタートしました。
はじめのうちは失敗もありましたが、まったく違う業界から不動産に参入したことで、それまでなかった発想が生まれたことが良かったと感じます。
あらためて空き家投資が社会にもたらすメリットは、次の4つです。
空き家投資が社会にもたらす4つのメリット
- 低家賃で戸建に住めることで入居者に喜ばれる
- 持ち主が収益を得られることで喜ぶ
- 工務店には雇用が提供できる
- その上、地域の住民からは「空き家がなくなり安心だ」と感謝される
この他にも、再生した戸建に住む入居者からは「小さい子どもがいても安心して住める」「戸建ならペットと一緒に住むのに最適です」などの声も寄せられています。
また持ち主の方の中からは、「低リスク高利回りなのでドンドン投資します」と言って3年で20戸も再生する方が出てきました。
工務店からは「下請けを脱却することで、経営の安定とやりがいができました」などの声をいただいています。
今後も全古協では、「4方よし!で全国の空き家を無くす!」宣言のもと、活動地域を広めていき、さらなる会員数の増加に努めます。
また、相続のご相談も増えていることから、投資だけではなく、「空き家活用の伝道士(古家再生士®)」としての活動もスタートします。
昨年からは、私が出演して空き家活用について解説するYouTubeでの配信も始めました。
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空き家には、それぞれに思いがあり物語があります。それらの思いと共に、しっかりと空き家を活用することで、私たちはその物語を未来につなげていきます。