(一社)全国古家再生推進協議会 理事長 大熊重之です。
親から相続した実家や、すでに住む予定のない実家を「賃貸に出そう」と考える方が近年増加傾向にあります。少子高齢化が進むなかで、空き家の増加が社会問題化している背景もあり、空き家を有効活用することは地域や社会全体にとっても大きな意義があります。一方で、実家を賃貸として提供するには、一般的な不動産投資や賃貸管理とは異なる特有の注意点や手続き上のポイントが存在します。そうした点を理解せずに運用を始めてしまうと、後々トラブルに巻き込まれたり、思わぬ費用負担を被る可能性もあるため、事前の情報収集や下準備が大変重要です。
本記事では、「実家を賃貸にする際に検討すべき事項」や「必要な手続き」「賃貸に出すことのメリット・デメリット」「トラブルを回避するための具体策」などを詳しく解説します。また、賃貸物件として安定的に運営し、収益を得続けるための管理方法や、契約の際に押さえておきたいポイントについても言及します。将来にわたり大切な資産を守りながら賃貸収入を得たい方、あるいは空き家を地域社会のなかで活用したいと考える方は、ぜひ最後までご覧ください。
実家を賃貸にするメリットとデメリット
メリット
家賃収入が得られる
住んでいない実家を賃貸に出すことで、毎月の家賃収入が期待できます。特に都市部であれば賃料相場が高いエリアも多く、そこに物件を保有している場合は安定した収入源となるでしょう。家族構成やライフスタイルの変化により使わなくなった家を放置しておくよりも、資産として活用できる点は大きなメリットです。
固定資産税の負担を軽減できる
空き家であっても所有している限り、毎年固定資産税や都市計画税が課税されます。実家を賃貸物件として稼働させることで得られる家賃収入が、これらの税金負担を実質的にカバーしてくれる場合があります。古い家であっても土地の評価額次第では固定資産税が高額になるケースもあるため、賃貸収入がその負担を軽減する意味は大きいといえます。
空き家の劣化を防げる
人が住んでいない住宅は劣化が進行しやすいとされています。定期的な換気がされず湿度が溜まり、カビが発生しやすくなったり、配管設備が長期間使われないことで水漏れなどのトラブルが発覚しにくくなったりするのです。入居者がいる場合は日常的に換気や掃除が行われるため、建物の物理的な状態を一定レベルで保ちやすくなります。
地域コミュニティに貢献できる
空き家が増加する地域では、防犯や治安の面での懸念や、町全体の景観低下が社会問題になりつつあります。実家を賃貸に出し、人が住むことで、地域の活性化やコミュニティの維持にも貢献できるでしょう。特に地方では、空き家の再利用を望む行政施策が充実している場合もあり、補助金や支援制度の活用につながることもあります。
デメリット
管理の手間がかかる
物件を賃貸に出すということは、家主として管理責任を負うことになります。入居者とのやり取りや、設備の故障・修繕への対応、定期的な点検など、オーナーとして行うべき業務が多岐にわたるのです。こうした管理業務を自分で行う場合には時間と労力がかかり、管理会社に委託する場合には委託料の負担が発生します。
トラブルのリスクがある
家賃滞納や入居者トラブル、隣人との騒音トラブル、急な修繕要請など、賃貸経営にはさまざまなリスクが存在します。物件が遠方にある場合や、多忙で対応が難しい場合にはリスク管理が後手に回る可能性があります。あらかじめ家賃保証会社や専門の管理会社を利用しておくと、トラブルリスクをある程度低減できますが、費用は発生します。
リフォーム費用がかかる場合がある
古い住宅をそのまま貸し出す場合、部屋の状態や設備が現代の賃貸ニーズに合わないケースが多々あります。たとえば、給湯器の老朽化、浴室やトイレの不便さ、耐震基準を満たしていないなど。入居希望者を獲得するためにも、ある程度のリフォームやリノベーションを行う必要があり、その費用負担がかかります。リフォーム規模によっては数百万円にもなる場合があるため、資金計画を慎重に立てることが重要です。
賃貸に出す前に必要な準備
実家を賃貸に出すと決めたら、まずは入念なリサーチと物件の状態チェックが欠かせません。事前の準備をしっかり行っておくことで、物件の魅力を高め、トラブルを防ぎながら安定経営を目指すことができます。
不動産市場のリサーチ
周辺の家賃相場を調べる
まずは実家がある地域の家賃相場を把握しましょう。近隣の類似物件の賃料水準や、物件の広さ・築年数・立地条件を確認することが大切です。地域によってはファミリー向け物件より単身者向け物件の需要が高いケースや、その逆もあります。また、最寄り駅からの距離や交通利便性、スーパーや病院などの生活インフラが充実しているかどうかも家賃設定を考える上で重要になります。
競合物件の把握
地域の不動産ポータルサイトや地元の不動産屋に足を運んで、同じような条件・間取りの賃貸住宅がどのような家賃設定なのか、またどの程度リフォームされているのかをチェックします。周辺の物件と比較して自分の物件はどこが優位か、あるいは劣っているかを整理し、どのように差別化していくか戦略を立てることが必要です。
地域の需要動向
賃貸の需要は場所によって大きく異なります。大学や大企業の工場が近隣にある場合は、学生や会社員の需要が見込めるかもしれません。観光地であれば、民泊ニーズも考えられます。一方で過疎化の進む地域では、家賃を安めに設定しないと入居者が見つからない可能性が高まるなど、地域特性を踏まえた戦略を立てましょう。
物件の状態をチェック
建物構造や設備の老朽化を確認
実家が木造の場合、築年数が古いとシロアリ被害や耐震性が不十分なケースがあるかもしれません。屋根や外壁の劣化具合、雨漏りの痕跡などを専門家に診てもらうのも有効です。住宅診断(ホームインスペクション)を利用すると、どの箇所を修繕すべきか明確に分かり、リフォーム優先度を判断しやすくなります。
水回りや内装の点検
給排水設備やガス設備、電気配線などは安全性を優先して確認しておきたい部分です。古い住宅では給湯器が故障しやすく、配管の腐食などで水漏れが起きやすいこともあります。入居後に大きなトラブルが発生すると、修理費だけでなく入居者対応や信頼低下などのリスクが高まるため、事前のチェックを入念に行いましょう。
生活に必要な設備の整備
エアコンや給湯機器、照明器具、ガスコンロなど、最低限入居者が快適に生活できる設備を整えておくことが賃貸経営の基本です。特にエアコンに関しては、最近の日本の夏は猛暑が続くことが多いため、設置済みであるか、古い機種であれば性能は問題ないか確認しておきましょう。
賃貸の形態を決める
普通賃貸借契約(長期)
もっとも一般的な賃貸契約形態で、契約期間は2年が基本となり、更新を重ねて長期にわたり入居してもらうことが前提です。安定した収入を得られる一方で、正当事由なしにオーナーから契約を解除することは難しいなど、入居者保護の観点からの制約もあります。将来的にオーナーや家族が戻って住む予定がない場合には、長期契約を結びやすい形態ともいえます。
定期借家契約(期間限定)
契約期間を限定して貸し出したい場合は、定期借家契約が適しています。最初に定めた契約期間が終了すれば、原則として契約は終了し、オーナー側から退去を求めることができるのが特徴です。例えば数年後に自分や家族が戻って住む予定がある場合や、建物の建て替え、売却の検討時期が明確な場合などに有用です。ただし、定期借家契約は普通賃貸借契約に比べて入居者の需要がやや低い場合もあるため、家賃を相場より少し下げるなどの工夫が必要となることもあります。
民泊やシェアハウス
Airbnbなどを活用した短期賃貸や、複数の個室を共有スペースとともに貸し出すシェアハウス形態も選択肢となります。ただし、民泊には地域ごとの規制があり、自治体によっては届け出が必要であったり、営業日数の上限が決まっていたりするケースがあります。シェアハウスでも防火や設備面での規制がかかる場合があるため、事前に行政に確認しておくことが大切です。
実家を貸し出すための手続き
実家を賃貸物件として活用するには、法律上の手続きや契約書の作成など、いくつかのステップを踏む必要があります。手続きを怠ると後々大きなトラブルにつながるため、抜け漏れのないように進めることが大切です。
不動産登記の確認
相続で取得した実家の場合、登記が被相続人(親)名義のままになっているケースが少なくありません。賃貸契約を締結する際、所有者として明確に名義をしておく方が入居者の信頼にもつながります。相続登記が未了であれば、法務局で必要書類を整えて早めに手続きを済ませましょう。なお、2024年から相続登記が義務化されるなど、法改正が進んでいるため、対応を怠ると罰則が科される可能性も出てきます。
賃貸契約書の作成
賃貸契約書は、オーナーと入居者の権利義務を明確にする重要な書面です。後々のトラブルを避けるためにも、以下の点をしっかり盛り込んでおきます。
- 家賃、敷金、礼金、管理費などの金額
- 契約期間(普通借家契約なのか定期借家契約なのか)
- 更新手続きや更新料の有無
- 退去時の原状回復範囲と費用負担
- 修繕負担の範囲や修理費用の負担者
- 共用部分やゴミ出しなどのルール
- 禁止事項(ペット、楽器演奏、タバコなど)の有無
- 連帯保証人や家賃保証会社の利用条件
特に古い物件の場合、修繕負担をどちらが負うのかが曖昧だと、設備故障などの際にトラブルが起きやすくなります。契約書に「軽微な修繕は入居者負担」「主要構造部分や設備更新はオーナー負担」など明確に書いておくとよいでしょう。
火災保険・家賃保証の加入
入居者に火災保険の加入を義務付けるケースは非常に一般的です。また、家賃滞納リスクをカバーするために家賃保証サービスの利用を推奨するオーナーも増えています。家賃保証サービスを利用すると、入居者が家賃滞納をした場合でも保証会社が立て替えてくれるため、オーナーのキャッシュフローが安定しやすくなります。
賃貸管理会社への委託(必要に応じて)
遠方に住んでいて物件の管理が難しい場合や、日常的な入居者対応の手間を減らしたい場合は、不動産の賃貸管理を専門会社に委託するのも選択肢の一つです。管理会社は入居者募集や審査、契約手続き、家賃集金、クレーム対応、修繕手配などを一括で行ってくれます。管理会社に支払う手数料や、管理委託の契約形態(サブリース方式など)によってはメリット・デメリットがあるため、複数の会社を比較検討するのがおすすめです。
賃貸管理の方法とポイント
実家を貸し出した後も、安定経営を続けるためには定期的な管理とメンテナンスが不可欠です。物件を借りる入居者の満足度を保ちながら、オーナーの負担を最小限に抑える仕組みづくりを考えましょう。
定期的な設備点検
オーナー自身が管理を行う場合、少なくとも半年に一度など、定期的に物件内の設備を点検するようにしましょう。給排水管の水漏れやガス機器の不調などは、安全面に関わる重大な問題に直結する可能性があります。入居者から「故障や不具合がある」という連絡を受けてから修理手配するだけでは、被害が拡大するケースも多いです。事前の点検で未然にトラブルを防ぎ、入居者の安心にもつなげましょう。
家賃の入金確認と督促
賃貸経営でもっとも大切なことの一つが、家賃収入の確実な確保です。入金確認を毎月必ず行い、万が一支払が滞った場合には早めに督促や保証会社への連絡など、適切な対応を取ることが重要です。滞納が長引くと、オーナー側のキャッシュフローが悪化してしまうばかりでなく、入居者との信頼関係も崩れてしまいます。
入居者からの問い合わせ対応
設備の故障や近隣トラブル、生活ルールに関する質問など、入居者からの問い合わせはさまざまです。こうした連絡に迅速かつ丁寧に対応することで、長期入居へとつながり、空室リスクの低減にも寄与します。管理会社を利用している場合でも、オーナーからの確認が必要な事項は随時対応が必要となるため、連絡のやりとりが滞らないようにしておきましょう。
長期入居を促す工夫
賃貸経営で安定収益を得るためには、なるべく空室期間を短くすることがポイントです。入居者が住み続けたくなる環境づくりのためにも、内装のリニューアルや防犯設備の導入、インターネット環境の整備などを検討するとよいでしょう。最近は高速インターネットやWi-Fi完備を重視する入居者が多く、こうした設備が整っていると競合物件に比べて優位性が出やすくなります。
実家を賃貸する際のトラブル事例と対策
実家を賃貸に出すと、オーナーが予期せぬトラブルに巻き込まれることがあります。想定されるリスクを事前に知っておき、対策を準備しておくことが大切です。
トラブル事例1:家賃滞納
事例
入居者が数カ月にわたり家賃を支払わず、督促しても応じない。連絡がつかないまま滞納が続き、オーナーが金銭的損害を被った。
対策
- 家賃保証会社を利用することで、家賃滞納時に立替払いを受ける。
- 契約時に連帯保証人を設定し、緊急連絡先を明確にしておく。
- 早期に滞納が発覚した段階で、書面による督促や内容証明郵便など、法的手段を検討する。
トラブル事例2:設備の故障
事例
給湯器が故障してお湯が出なくなり、入居者から強いクレームが入ったが、修理手配が遅れてしまい、関係が悪化。退去されてしまった上に、悪い口コミが広がってしまった。
対策
- 修繕負担や連絡方法を契約書で明示し、故障があった際の連絡フローを確立しておく。
- 定期点検を行い、設備の更新時期を把握して早めに修繕計画を立てる。
- 地元の修理業者やリフォーム会社と事前に提携し、急なトラブルでも速やかに対応できる体制を用意する。
トラブル事例3:入居者同士の騒音・近隣トラブル
事例
賃貸物件の隣家との境界付近で騒音が発生し、近隣住民とトラブルに発展。オーナーが間に入って対応したものの、解決に時間がかかり、評判が悪化。
対策
- 事前に騒音やゴミ出しルールなどを契約書や入居時に周知しておく。
- 管理会社と連携して、入居者や近隣からの苦情に対して迅速に対処する窓口を設置する。
- 防音対策やフェンス設置など、物理的にトラブルを回避できる改善策がある場合は検討する。
まとめ
実家を賃貸に出すことは、収益面だけでなく、空き家対策や地域貢献にもつながる有意義な選択肢となり得ます。しかし、実家という思い入れのある物件であっても、賃貸運用となればビジネスとしての視点が求められます。以下のポイントを総合的に押さえて、実家の賃貸活用を検討しましょう。
市場調査と戦略の立案
近隣の家賃相場を把握し、需要を見極めたうえで、リフォームや賃料設定の戦略を立てる。物件の状態チェックと必要なリフォーム
古い設備や建物の劣化具合を専門家に確認してもらい、必要な修繕・リノベーションを見極める。適切な契約形態と契約内容の明文化
普通借家契約と定期借家契約の違いを理解し、契約書には家賃・敷金・修繕負担などを明確に定める。管理体制の構築
入居者対応や家賃回収、設備トラブルへの対処などを自主管理か管理会社に委託するか検討し、入居者満足度を高める。トラブルを想定したリスク対策
家賃保証会社の活用や火災保険の加入、定期的な点検を通じて、リスクを最小限に抑える体制を整える。
実家を有効活用することで、固定資産税などの維持費を家賃収入で補いつつ、地域の空き家問題の解決にも寄与できます。ただし、実家を賃貸に出すにあたっては、相続登記の手続きやリフォーム費用の捻出、入居者トラブルへの対応など、新たな責任も生まれます。これらを踏まえたうえで計画を立てることが重要です。
もし賃貸経営や古家再生投資に関する知識をより深めたいと考える方がいれば、「古家再生投資プランナー」などの資格を取得し、専門知識を身につけるのも一つの方法です。知識と実務経験を積み重ねることで、古い物件を魅力的な賃貸物件として蘇らせ、安定した収益源とすることも十分に可能になります。ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
以上が、実家を賃貸に出す際に押さえるべきポイントや必要な手続きの概要となります。実家の物件を放置しておくと、税金の負担がかかるだけでなく、建物の劣化や治安の問題など、マイナス面が増えてしまう恐れがあります。賃貸に出すことで新たな収入源を得ると同時に、社会的課題である空き家問題の解決にも寄与できる意義は非常に大きいと言えます。
もし具体的に賃貸経営をスタートするのであれば、まずは信頼できる不動産会社や管理会社に相談し、現地調査や物件の評価を受けるところから始めてみましょう。初期投資としてのリフォームや設備更新の予算、賃料設定の妥当性、今後の維持管理にどの程度の費用や手間がかかるかなど、事前にシミュレーションを行って計画的に進めることが成功へのカギとなります。
多くの方にとって「実家」は思い出深い場所であり、資産でもあります。その大切な物件をどのように生かしていくかは、個々のライフプランや家族の状況、地域の需要動向によってさまざまな答えがあるでしょう。短期間の運用目的であっても、長期間にわたる安定的な資産活用を目指すにしても、本記事で紹介した基礎知識や注意点を参考に、計画的かつ慎重に検討を進めてみてください。
皆様の賃貸経営が円滑に進み、実家を有効に活用できることを願っています。ご興味がある方はぜひ「古家再生投資プランナー」の資格取得や、関連する講座やセミナーへの参加も検討していただき、知識を深めるところから始めてみてはいかがでしょうか。こうした資格やセミナーでは、古い物件特有の構造や法的注意点、実際の再生事例を学べるため、実家の賃貸活用においても大いに役立つはずです。
賃貸経営を通じて、皆様の大切な実家が新たなかたちで蘇り、次の世代へとつながる価値ある不動産となることを心より応援しています。
POST: 2025.02.23