賃貸物件の相続時に知っておくべき家賃収入の取り扱い

賃貸物件の相続時に知っておくべき家賃収入の取り扱い

こんにちは。(一社)全国古家再生推進協議会 理事長 大熊重之です。

突然の出来事として訪れる「相続」。もし相続財産の中にアパートやマンションなどの賃貸物件が含まれていたら、あなたはどうしますか?「相続手続きだけでも大変なのに、家賃収入の扱いや税金のことまで考えられない…」「相続人間でトラブルにならないか心配だ」といった不安を抱える方は少なくありません。

賃貸物件の相続は、単に不動産という資産を引き継ぐだけでなく、そこから生まれる「賃貸収入」という継続的なキャッシュフローと、「賃貸経営」という事業を引き継ぐことを意味します。この収入の取り扱いを正しく理解していないと、思わぬ税金の追徴を受けたり、相続人間での深刻なトラブルに発展したりする可能性があります。

しかし、ご安心ください。この記事を最後までお読みいただければ、賃貸物件の相続に関する基本的な知識から、相続開始前後の家賃収入の具体的な分配方法、複雑な確定申告の手続き、そして最も避けたい相続トラブルの予防策まで、すべてを網羅的に理解できます。

相続という機会を、単なる負担ではなく、あなたの未来を豊かにする資産活用の第一歩に変えるために。さあ、一緒に学んでいきましょう。

相続と賃貸収入の基本知識

まず最初に、相続における賃貸物件とそこから生まれる収入の基本的な位置づけを理解しておくことが重要です。ここを曖昧にしたまま手続きを進めると、後々大きな問題に発展しかねません。基本をしっかりと押さえ、スムーズな相続を実現しましょう。

賃貸物件は相続財産?相続税の対象になるの?

結論から申し上げますと、アパートや賃貸マンションなどの賃貸物件は、間違いなく相続財産に含まれます。被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産は、土地も建物もすべて相続の対象となるのです。これは、現金や預貯金、株式などと同様の扱いです。

賃貸物件が相続財産であるということは、当然ながら相続税の課税対象にもなります。相続税を計算する際には、その物件の評価額を算出し、他の財産と合算した上で税額が決定されます。この評価額の算出方法は非常に専門的で、物件の立地や状態、土地の形状などによって大きく異なり、現金などとは異なる複雑さがあります。

具体的には、土地は「路線価方式」または「倍率方式」、建物は「固定資産税評価額」を基準に評価されます。特に賃貸物件の場合、「貸家建付地」や「貸家」として評価されるため、自分で使用している不動産よりも評価額が低くなる傾向があり、これが相続税対策としてアパート経営が注目される理由の一つです。しかし、評価方法を間違えると過大な税金を納めることにもなりかねませんので、正確な状況把握が不可欠です。

さらに重要なのが、賃貸物件を相続すると、単に資産という「権利」だけでなく、賃貸経営者としての「義務」も引き継ぐという点です。これには、以下のようなものが含まれます。

●入居者との賃貸借契約の継続
●建物の維持管理・修繕義務
●家賃の徴収や滞納者への対応
●敷金の返還義務

つまり、相続人は新たな大家さんになるわけです。この権利と義務を正しく理解し、引き継ぐ覚悟が必要です。もし、「あれもこれも自分には無理だ」と感じる場合は、相続放棄を検討するケースもありますが、その判断は慎重に行う必要があります。

相続後の賃貸収入はどう扱う?申告や分配は必要?

被相続人が亡くなったからといって、賃貸経営が止まるわけではありません。入居者がいる限り、家賃、すなわち賃貸収入は相続開始後も継続して発生します。この収入の取り扱いは、相続手続きにおいて非常に重要なポイントです。

まず、相続開始後に発生した賃貸収入は、相続財産そのものではなく、遺産から生じる「果実」と法的に位置づけられます。この収入は、遺産分割協議が完了するまでの間、各相続人がそれぞれの法定相続分に応じて取得する権利を持つのが原則です。

したがって、この収入を誰かが独占したり、使途不明にしてしまったりすると、後々のトラブルの原因となります。複数の相続人がいる場合、収入の管理方法や分配方法について、事前にしっかりと話し合い、合意形成を行っておくことが極めて重要です。例えば、代表者を一人決めて家賃の入金口座を管理し、毎月の収支を全員に報告する、といったルール作りが求められます。

そして、忘れてはならないのが税金の申告義務です。相続した賃貸物件から得た収入は、相続人の不動産所得となります。そのため、家賃収入から必要経費(管理費、修繕費、固定資産税など)を差し引いた所得を、翌年に確定申告し、所得税を納める必要があります。

特に相続人が複数いる場合は、誰がどのくらいの収入を得たのかを明確にし、それぞれが正しく申告を行わなければなりません。この期間の管理や連絡を怠ると、税務調査の対象となったり、無用な費用が発生したりする可能性が多いのです。賃貸経営は、単にお金を受け取るだけでなく、こうした税務上の義務も伴う事業であると認識しておきましょう。敷金の返還のように、将来的に現金が出ていく義務も引き継ぐことを忘れてはなりません。

相続開始前の賃貸収入の扱い

相続開始「後」の家賃収入が相続人の所得になることはご理解いただけたかと思います。では、相続が開始される「前」、つまり被相続人が亡くなる前に発生していた家賃収入はどのように扱われるのでしょうか。この違いを理解することが、相続財産の範囲を正確に特定する上で重要になります。

相続開始“前”の家賃収入、相続財産に含まれる?

相続開始前に被相続人が得た家賃収入は、その取得した時点で被相続人自身の財産となります。したがって、その家賃収入そのものが、直接的に相続財産として個別にリストアップされるわけではありません。

少し分かりにくいかもしれませんが、例えば、被相続人が亡くなる前月分の家賃が、亡くなる前に被相続人の銀行口座に振り込まれていたとします。この場合、その家賃収入は、被相続人の預貯金の一部として扱われます。つまり、相続財産としては「現金・預貯金」という項目に含まれる形になるのです。

この原則から、相続開始前に得た家賃収入は、相続税の計算上は「被相続人が所有していた預貯金」として評価され、相続税の対象となります。しかし、それはあくまで預貯金という形に変化した後の話であり、家賃収入そのものが独立して相続財産になるわけではない、という点がポイントです。

この違いが重要になるのは、例えば家賃が滞納されていたケースです。相続開始前に発生していたけれども、まだ支払われていない「未収家賃」は、「債権」として相続財産に含まれます。一方で、既に受け取っていた家賃は「預貯金」です。このように、どの時点で収入が発生し、どのような状態で残っているかによって、相続財産としての性質が変わってきます。

また、被相続人が亡くなる前に得た収入について、相続人が改めて税務申告を行う必要は原則としてありません。その収入に関する申告義務は、被相続人自身に帰属していたからです(ただし、後述する「準確定申告」は必要です)。

相続放棄を検討している場合、被相続人名義の預貯金を引き出して使うと、相続を承認したと見なされ、放棄できなくなる可能性があります。たとえそれが元々は家賃収入であったとしても、預貯金という財産を処分したことになってしまうため、注意が必要です。このように、相続開始前の家賃収入の現在の状態を正確に把握することは、適切な相続手続きの第一歩と言えるでしょう。現在所有している財産がどのように形成されたかを理解することは、事業承継や賃貸物件の運営を考える上でも不可欠です。

生前の賃貸収入は相続財産の評価にどう影響する?

前述の通り、相続開始前の賃貸収入そのものは、個別の相続財産として評価されるわけではありません。しかし、だからといって全く無関係というわけでもありません。被相続人が生前に得ていた賃貸収入の実績は、間接的に相続財産の評価に大きな影響を与えます。

その最大の理由は、賃貸物件という不動産の相続税評価額が、その収益性によって左右されるからです。特に、アパートやマンション一棟を相続するようなケースでは、その物件が将来どれくらいの収入を生み出すかという予測が、評価額を決定する上で非常に重要な要素となります。

税理士や不動産鑑定士が物件を評価する際、過去の家賃収入の実績や入居率、周辺の家賃相場などを詳細に調査します。生前の賃貸収入が高く、安定している物件は、それだけ収益性が高いと判断され、結果として相続財産としての評価額も高くなる傾向にあります。逆に、空室が多かったり、家賃が相場より低かったりすれば、評価額は低くなる可能性があります。

この評価額は、相続税額に直結するだけでなく、遺産分割協議における相続分配にも影響を与える可能性があります。例えば、相続人が複数いる場合、「あの収益性の高いアパートは私が相続したい」「いや、それなら代償金としてこれだけ支払ってほしい」といった議論になることは容易に想像できます。その際、物件の価値を客観的に示す根拠として、生前の賃貸収入の実績が重要な役割を果たすのです。

そのため、相続に備える上では、生前の賃貸経営に関する記録(賃貸借契約書、家賃の入出金記録、修繕履歴など)をきちんと整理・保管しておくことが非常に望ましいと言えます。これらの資料がなければ、正確な調査が困難になり、評価が複雑化したり、相続人間で不公平感が生じたりする結果になりかねません。

遺産相続は、時に感情的な対立を生じやすいものです。客観的なデータに基づいて冷静に話し合いを進めるためにも、生前の賃貸収入が相続財産に与える影響を正しく理解しておくことが、円満な解決への近道となるでしょう。

相続開始後の賃貸収入の分配

相続が開始されてから遺産分割協議が完了するまでの間は、法的に不安定な期間と言えます。この期間中にも家賃収入は発生し続けますが、そのお金は誰のもので、どのように分ければよいのでしょうか。ここのルールを間違えると、後々「遺留分を侵害された」といった深刻なトラブルに発展する可能性もあるため、注意が必要です。

遺産分割協議が終わるまで家賃収入はどう分ける?

遺産分割協議が完了するまでの間、相続財産は法定相続人全員の共有状態にあります。この共有状態にある賃貸物件から生じる家賃収入の取り扱いについては、平成17年の最高裁判所の判例が重要な指針となっています。

その判例によると、「遺産分割前の賃貸物件から生じる家賃収入(賃料債権)は、遺産とは別の財産であり、各共同相続人がその法定相続分の割合に応じて、分割された単独の債権として確定的に取得する」とされています。

これはどういうことかというと、例えば相続人が配偶者と子供2人(法定相続分は配偶者1/2、子供各1/4)の場合、毎月の家賃10万円が発生したら、その瞬間に配偶者が5万円、子供2人がそれぞれ2万5千円を受け取る権利を法的に確定して持つ、ということです。つまり、遺産分割協議の結果を待たずとも、家賃収入は法定相続分の割合で当然に分割される、というのが法律上の原則なのです。

しかし、実際の現場では、毎月入居者から振り込まれる家賃を、相続人がそれぞれの割合で別々に請求するわけにはいきません。現実的ではないため、実務上は以下のような方法が取られることが一般的です。

1.代表者を決めて家賃を管理する
相続人の一人が代表となり、被相続人の口座をそのまま使うか、新たに相続人代表名義の口座を開設して家賃の振込先に指定します。そして、その口座に入った収入と、そこから支払われる経費(管理費、修繕費など)をすべて記録します。
2.遺産分割協議で最終的に精算する
協議が完了するまで家賃収入はプールしておき、遺産分割協議が成立した際に、それまでに貯まった純収益を法定相続分や協議内容に応じて分配・精算する。

この方法を取るには、相続人全員の同意が大前提です。誰か一人が勝手にお金を使ってしまうようなことがあれば、信頼関係は崩壊し、協議は間違いなく難航します。そのため、収入と支出の記録を明確にし、いつでも全員が確認できるようにしておくなど、公平性と透明性を保つ工夫が不可欠です。あっという間に大きな金額になる可能性もあるため、計算ミスがないように注意しましょう。この分配方法は、あくまで実務上の便宜的なものであり、法的な権利関係とは異なるという点を理解しておくことが重要です。

遺産分割協議が成立!家賃収入は誰のものになる?

長かった遺産分割協議が無事に成立し、遺産分割協議書が作成されると、それまで共有状態だった財産の帰属先が正式に確定します。賃貸物件を誰が相続するかが決まれば、その日以降に発生する家賃収入の帰属も明確になります。

例えば、遺産分割協議の結果、「長男がアパートを単独で相続する」と決まった場合、協議成立日以降に発生する家賃収入は、すべて長男のものとなります。他の相続人は、その収入に対して権利を主張することはできません。

この際、最も重要なのが遺産分割協議書の内容を明確に文書化することです。協議書には、以下の点を必ず明記しましょう。

  • どの不動産(所在地、地番、家屋番号など)を、誰が相続するのか。
  • 相続開始日から遺産分割協議成立日までに発生した家賃収入の分配方法(例:法定相続分に応じて分配する、特定の相続人が取得する代わりに他の財産で調整するなど)。
  • 今後の賃貸物件の管理方法や運営方針。
  • 敷金の返還義務を誰が引き継ぐのか。

協議内容を詳細に記した協議書を作成し、相続人全員が署名・押印することで、法的な効力を持つ証拠となります。これにより、「言った、言わない」といった将来の紛争を防ぐことができます。特に収益物件の場合、所得税の申告にも関わってくるため、税務上の観点からも文書化は必須です。

もし、物件を共有名義で相続することになった場合は、その後の家賃収入は共有持分の割合に応じて分配されることになります。この場合、今後の運営方針(修繕の決定権、家賃設定の変更など)についても、あらかじめルールを決めておかないと、新たなトラブルの火種になりかねません。売却して現金で分けるという選択肢も含め、将来の収益や管理の手間を総合的に考慮して、最適な分割方法を決定することが求められます。個別の事情に応じて、弁護士や税理士などの専門家がいる事務所に相談しながら進めるのが賢明です。

確定申告と賃貸収入

賃貸物件を相続し、家賃収入を得るということは、不動産所得を得る事業者になることを意味します。これに伴い、税金の申告という重要な義務が発生します。特に相続が発生した年は、通常とは異なる「準確定申告」と、相続人自身の「確定申告」の2つが必要になる場合があり、手続きが複雑になりがちです。

賃貸物件を相続したら確定申告は必要になる?

はい、必要になります。賃貸物件を相続し、その物件から家賃収入を得ている相続人は、その所得に対して所得税の確定申告を行う義務があります。

これは、相続税とは全く別の税金です。相続税は、被相続人から財産を相続したことに対して一度だけ課される税金です。一方、所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に対して課される税金です。

相続が発生した年度については、少し複雑になります。
相続開始日(被相続人が死亡した日)までに発生した家賃収入:これは被相続人の所得です。
相続開始日の翌日からその年の12月31日までに発生した家賃収入:これは相続人の所得です。

したがって、相続人は、相続開始日の翌日以降に得た家賃収入について、他の給与所得などと合算し、翌年の確定申告期間(通常は2月16日から3月15日)に申告・納税を行わなければなりません。

遺産分割協議が長引いて、その年の終わりまでに物件の所有者が正式に決まらなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合、原則として、各相続人がその期間中に法定相続分に応じて得たとみなされる家賃収入を、それぞれの所得として申告する必要があります。後から協議がまとまり、特定の人が物件を相続することになったとしても、その年(1月1日〜12月31日)の所得の帰属は変わらないため、注意が必要です。

相続税と所得税は、管轄する税務署は同じでも、全く異なる種類の税金です。この違いを正しく理解し、申告漏れがないように必ず手続きを行う必要があります。もし不安であれば、早めに税理士に相談することを強くお勧めします。税金の専門家である税理士に依頼すれば、経費の計算から申告書の作成まで、すべてを適切に行うことができます。

準確定申告とは?いつまでに何をすればいいの?

通常、所得税の確定申告は、所得を得た本人が翌年に行います。しかし、年の途中で亡くなった場合、本人は申告できません。そこで、その年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が本人に代わって申告と納税を行う手続きが必要になります。これを「準確定申告」と呼びます。

被相続人が生前に賃貸経営を行っていた場合、この準確定申告は**相続人の義務**となります。

【準確定申告のポイント】
・対象となる所得 : その年の1月1日から被相続人が亡くなった日までのすべての所得(不動産所得、給与所得、年金所得など)。家賃収入も当然これに含まれます。
・申告・納税の義務者 : 相続人全員(包括受遺者を含む)。相続人が複数いる場合は、連名で1枚の申告書を提出します。
・申告期限 : 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内**です。通常の確定申告よりも期限が短いため、特に注意が必要です。この期限を過ぎると、延滞税などのペナルティが課される可能性があります。

準確定申告の手続きをスムーズに進めるためには、以下の準備が必要です。
1. 必要書類を整える
・被相続人の生前の収入や経費がわかる書類
(賃貸借契約書、家賃の入金記録、固定資産税の納税通知書、修繕費の領収書など)
・医療費控除や生命保険料控除など、各種控除に関する証明書
・準確定申告書
(通常の確定申告書と同じ様式ですが、表題に「準」と書き加えます)
・付表(相続人の氏名、住所、被相続人との続柄などを記載する書類)
2. 申告書の提出
被相続人の死亡当時の納税地(通常は住所地)を管轄する税務署に提出します。

準確定申告は、被相続人の所得を確定させる重要な手続きであり、これを怠ると相続人自身が税務上の責任を問われることになります。なぜこの手続きが必要なのか、その理由と流れをしっかり説明し、相続人全員で協力して期限内に済ませることが大切です。実際の手続きは複雑な部分も多いため、こちらも税理士に相談するのが最も確実でスムーズな方法と言えるでしょう。

相続トラブルを避けるためのポイント

賃貸物件のような高額で収益を生む財産は、残念ながら相続トラブルの火種になりやすいという側面があります。しかし、適切な準備と対応を心がけることで、多くのトラブルは未然に防ぐことが可能です。ここでは、そのための最も重要なポイントを解説します。

なぜ遺産分割協議が相続トラブル回避の鍵なの?

相続トラブルの多くは、遺産の分け方を決める「遺産分割協議」がまとまらないことに起因します。特に、アパートのように物理的に分割しにくい不動産は、誰が相続するのか、あるいは売却するのかで意見が対立しがちです。この協議を円滑に進め、その内容を明確に記録することが、トラブル回避の絶対的な鍵となります。

そのために不可欠なのが「**遺産分割協議書**」の作成です。これは、相続人全員が遺産の分割内容について合意したことを証明する法的な文書です。

【遺産分割協議書の重要性】
●合意内容の明確化
口約束だけでは後から「そんなことは言っていない」という争いになりかねません。誰がどの財産をどれだけ相続するのか、その内容を一覧にして文書で残すことで、相続人それぞれの権利と義務が確定します。
●法的手続きの根拠
不動産の相続登記(名義変更)や、預貯金の解約・名義変更など、各種手続きにおいて遺産分割協議書は必須の提出書類となります。これがなければ手続きを進めることができません。
●将来のトラブル防止
一度全員が署名・押印した協議書は、強力な証拠となります。これにより、後から蒸し返されるリスクを大幅に減らすことができます。

遺産分割協議は、**全相続人の合意**が基本です。一人でも反対する人がいれば成立しません。だからこそ、特定の相続人だけが得をするような内容ではなく、全員が納得できるような落としどころを探る話し合いが重要になります。

もし合意内容が複雑であったり、将来の紛争が少しでも懸念されたりする場合には、公証役場で「公正証書」として遺産分割協議書を作成することも検討すべきです。公正証書は、公証人が内容を確認した上で作成されるため、非常に高い証明力と執行力を持ち、より強力なトラブル防止のメリットがあります。概要だけでなく、財産の範囲や分配のポイントを具体的に記載することが肝要です。

賃貸収入をめぐる相続トラブルを未然に防ぐ方法は?

遺産分割協議をスムーズに進めるため、そして協議後のトラブルを発生させないためには、事前の対策が何よりも重要です。受け身で相続の開始を待つのではなく、 proactive(主体的)に動くことで、未来の紛争の芽を摘むことができます。

1. 事前に相続について話し合う
最もシンプルで、最も効果的な対策です。被相続人が元気なうちに、家族全員で相続について話し合う機会を持つことです。親がどの財産を誰にどのように遺したいと考えているのか、子供たちは何を望んでいるのか。お互いの考えを知っておくだけで、いざという時の心理的なハードルは大きく下がります。賃貸物件の管理や運営についても、誰が引き継ぐのが適任か、事前に話し合っておくのが理想です。

2. 遺言書の作成を推奨する
被相続人の意思を法的に明確にする最も強力な方法が「**遺言書**」です。遺言書があれば、原則として遺産分割協議は不要となり、その内容に従って遺産が分配されます。特に、特定の子供に賃貸物件を継がせたい、世話になった嫁にも財産を分けたいなど、法定相続分とは異なる分け方を望む場合には必須の制度です。トラブルを解決するためではなく、発生させないための最善策の一つと考えましょう。

3. 専門家の相談を活用する
相続は、法律(民法)、税金(相続税・所得税)、不動産と、非常に専門的な知識が絡み合います。自分たちだけで解決しようとすると、誤った判断をしてしまったり、感情的な対立を深めたりする可能性があります。弁護士、税理士、司法書士といった専門家に早めに相談することで、法的に正しく、税務上も有利な方法で、円滑に手続きを進めるための的確なアドバイスを受けられます。

そしてもう一つ、忘れてはならない視点があります。それは「**相続した賃貸物件を、その後どう活用していくのか**」という不動産経営の視点です。相続手続きを終えることがゴールではありません。そこから安定した賃貸収入を得ていくためには、物件の価値を維持・向上させるための知識やノウハウが不可欠です。

ここで役立つのが、私たち(一社)全国古家再生推進協議会が認定する「**古家再生投資プランナー®**」の資格です。この資格を取得する過程で、物件の選定方法、効果的なリフォーム、賃貸経営の基礎といった、まさに相続した賃貸物件を運営していく上で必須の知識を体系的に学ぶことができます。相続という機会に、こうした専門知識を身につけることは、将来の安定した収入を確保し、資産価値を守るための最高のトラブル対策と言えるでしょう。

賃貸物件の相続に関するよくある質問

ここでは、賃貸物件の相続に関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。具体的なケースを想定することで、ご自身の状況に当てはめて理解を深めていきましょう。

Q1. 結局、相続したアパートの家賃は誰が受け取るの?

これは最も多い質問の一つですが、答えは「**遺産分割協議で決めた人が受け取る**」というのが最終的な結論です。

ただし、そこに至るまでの過程が重要です。
1. 遺産分割協議が成立するまで
前述の通り、法律(民法)上の原則では、相続人**全員**がそれぞれの**法定相続分**に応じて受け取る権利を持ちます。しかし、実務上は代表者が一括で管理し、後で精算するケースが多いです。この期間の収入を誰かが勝手に使ってしまうと、後で他の相続人から返還を求められる可能性があります。
2. 遺産分割協議が成立した後
遺産分割協議書に記載された通り、そのアパートを相続した人が、その後の家賃をすべて**受け取る**権利を持ちます。例えば、長男が単独で相続すると決まれば、家賃はすべて長男の収入となります。

つまり、遺産分割協議が終わるまでは「相続人全員の共有財産から生じる収入」、協議が終わった後は「物件を相続した人の収入」と、その性質が変わるのです。この点を家族全員で正しく知っておくことが、無用な誤解を避けるために重要です。もし情報が不足していると感じたら、私たちの公式サイト(home)や、東京などの各支部で無料相談も受け付けていますので、ご活用ください。

Q2. 遺言書がある場合、家賃収入の扱いはどうなる?

遺言書がある場合、相続は原則としてその取り扱い内容が最優先されます。したがって、家賃収入の帰属も遺言書の内容に従うことになります。

例えば、遺言書に「長男に福岡市のアパートを相続させる」と明確に記載されていれば、相続開始の時点からそのアパートは長男に帰属することが確定します。その結果、相続開始後に発生する家賃収入も、当初から長男が受け取る権利を持つことになります。

この場合、遺産分割協議は原則として不要です。ただし、遺言書の内容を実行するために「遺言執行者」が指定されていることが多いです。遺言執行者は、不動産の名義変更(相続登記)や、入居者への連絡、家賃の振込先口座の変更といった具体的な手続きを行います。相続人は、遺言執行者の指示に従って手続きを進めることになります。

もし、遺言書の内容に納得がいかない相続人がいたとしても、法的に有効な遺言書であれば、その内容を覆すことは非常に困難です。ただし、遺留分(法律で定められた最低限の相続分)を侵害されている場合は、「遺留分侵害額請求」を行う権利があります。

このように、遺言書は財産の帰属を強力に定めるものです。この記事で紹介しているような相続手続きの基本を押さえつつも、もし遺言書が存在するなら、まずはその内容を正確に確認することが何よりも先決です。作成された遺言書が法的な要件を満たしているか不安な場合は、法律事務所などに相談し、その有効性を確認することをお勧めします。亡くなった方の最後の意思を尊重し、定められた手続きを適切に進めることが求められます。

Q3. 遺産分割協議が長引いた時の家賃はどうすれば?

遺産分割協議が相続人間の意見の対立で長引いてしまうことは、残念ながら珍しくありません。数年にわたって協議が続くケースもあります。この間も家賃は発生し続けますが、その管理をどうするかは非常に悩ましい問題です。

このような状況に陥った場合の対処法は以下の通りです。

1. **専門家に相談する**: まずは弁護士に相談し、法的な代理人として間に入ってもらうことを強くお勧めします。当事者同士の話し合いでは感情的になりがちですが、第三者である専門家が加わることで、冷静かつ法的な根拠に基づいた議論が可能になります。場合によっては、家庭裁判所に「遺産分割調停」や「審判」を申し立てることも選択肢となります。
2. **一時的な収入分配・管理方法を合意する**: 協議が長引くことが予想される場合、その間の家賃収入の管理方法について、暫定的な合意を書面で交わしておくことが重要です。例えば、「相続人の一人を管理代表者とし、家賃入金用の口座を新設する」「その口座から固定資産税や管理費などの必要経費のみを支払い、残額は最終的な分割が決まるまで一切動かさない」といったルールを決めます。これにより、使い込みなどの新たな紛争を防ぐことができます。
3. **協議の進捗を定期的に確認する**: 代理人を立てた場合でも、任せきりにするのではなく、定期的に進捗状況の報告を受け、相続人間で情報共有を図ることが大切です。膠着状態が続くようであれば、訴訟もやむを得ないケースもありますが、できる限り話し合いでの解決を目指す姿勢が、早期解決に繋がります。

協議が長引けば長引くほど、相続人全員にとって精神的にも経済的にも負担が大きくなります。悩みは一人で抱え込まず、できる限り早い段階で専門家の力を借りることが、泥沼化を防ぐ最善の策と言えるでしょう。

まとめと今後の対応

ここまで、賃貸物件の相続における家賃収入の取り扱いについて、基本的な知識から具体的な手続き、トラブル回避策まで詳しく解説してきました。最後に、これまでの内容を総括し、皆さんが今後取るべき行動についてお伝えします。

相続した賃貸収入の重要性と今後の活かし方とは?

相続における賃貸収入は、単なる財産の一部ではありません。それは、相続人にとって将来にわたる安定した収入源となり得る、非常に重要な資産です。この収入は、相続後の生活を支える基盤となったり、新たな事業への投資資金となったりと、様々な可能性を秘めています。

また、適切に管理された賃貸物件は、インフレに強い資産としても機能します。現金の価値が目減りする局面でも、家賃収入は物価に連動して上昇する傾向があり、資産価値を守る役割を果たします。さらに、前述の通り、賃貸物件は相続税評価額が圧縮されるため、相続税対策としても大きな効果が期待できるのです。

したがって、賃貸物件の相続は、手続きの流れを理解して終わりではありません。その物件を今後どのように管理・運営し、その価値を最大限に引き出していくかを考えることが、本当の意味での資産承継と言えます。

そのためには、物件の現状を正確に把握し、必要であればリフォームやリノベーションを行って競争力を高め、長期的に安定した賃貸経営を実現するための知識と戦略が不可欠です。相続という関係性を考慮し、この機会を前向きに捉え、資産を育てていく視点を持つことが何よりも重要です。

複雑な相続手続き、誰に相談するのがベスト?

相続に関する問題は、法律、税務、不動産と多岐にわたり、非常に複雑です。手続きのどこか一つを間違えるだけで、大きな損失やトラブルに繋がりかねません。そのため、専門家の力を借りることは、もはや必須と言っても過言ではありません。

では、誰に相談すればよいのでしょうか。悩みの内容に応じて、頼るべき専門家は異なります。

●遺産分割で揉めている、遺言書の内容で争いがある場合
弁護士が最適です。相続人間の交渉代理や、調停・審判の手続きを依頼することができます。
●相続税の申告、準確定申告が必要な場合
税理士に相談しましょう。節税に関する専門的なアドバイスを受けながら、正確な税務申告を依頼できます。
●不動産の相続登記(名義変更)が必要な場合
司法書士が専門です。法務局への登記申請を代行してくれます。

これらの専門家は、それぞれ独立して活動していますが、相続案件に強い事務所では、弁護士、税理士、司法書士が連携しているケースも多くあります。ワンストップで対応してもらえる事務所を探すのも一つの手です。

そして、相続手続きが一段落し、「この賃貸物件をどう活用していこうか」という段階になった時、ぜひ私たち(一社)全国古家再生推進協議会にご相談ください。私たちは、古くなった物件を再生し、高利回りの収益物件へと生まれ変わらせるノウハウを持つ専門家集団です。

相続した物件のポテンシャルを最大限に引き出すための具体的なアドバイスを提供し、あなたの賃貸経営が成功するよう、全力でサポートします。電話やサイトのフォームから、いつでもお気軽にお問い合わせください。相続という大きな出来事を乗り越え、新たな一歩を踏み出すあなたを、私たちは心から応援しています。

最後に…

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

賃貸物件の相続は、確かに複雑で、不安に感じることも多いでしょう。しかし、一つ一つのステップを正しく理解し、適切な対応を取れば、決して乗り越えられない壁ではありません。むしろ、それはご両親やご先祖様が遺してくれた、あなたの未来を豊かにするための素晴らしい機会なのです。

私が理事長を務める(一社)全国古家再生推進協議会では、これまで数多くの相続物件の再生に携わってきました。相続されたものの、古くて借り手がつかず、どうしていいか分からなかった空き家。それが、適切なリフォームと運営ノウハウによって、地域に喜ばれる高利回りの賃貸物件へと生まれ変わる姿を何度も見てきました。

相続した物件は、購入費用がかからないという最大のメリットがあります。つまり、リフォーム費&用だけで投資を始められるため、驚くほど高い利回りを実現できる可能性があるのです。このチャンスを最大限に活かすために必要なのが、「知識」です。

もしあなたが、今回の相続をきっかけに、不動産投資や賃貸経営に本格的に取り組んでみたいとお考えなら、ぜひ「古家再生投資プランナー®」の資格取得を目指してみてください。この資格は、単なる知識の証明ではありません。物件の価値を見抜き、それを収益に変えるための実践的な知恵と技術を身につけるための、最高の羅針盤となります。

資格を取得すれば、私たちが全国で開催している物件見学ツアーに参加し、プロの目で選ばれた優良物件に触れる機会も得られます。それは、あなたの資産形成の視野を大きく広げる、またとない経験となるはずです。

相続は、終わりではなく、始まりです。遺された財産を、未来への希望に変える。その力強い一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか。あなたの挑戦を、心よりお待ちしております。

POST: 2025.07.24