こんにちは。(一社)全国古家再生推進協議会 理事長の大熊重之です。
ここ数年、「空き家投資」という言葉を耳にする機会が増えてきました。少子高齢化や人口減少に伴い、都市部・地方部問わず空き家が増加している日本では、遊休資産となった古い家や使われなくなった家を再生し、賃貸物件やセカンドハウスなどとして活用する流れが確立しつつあります。
空き家投資が注目を集める大きな理由としては、「中古不動産の安価な取得価格」「リノベーションによる付加価値向上」「地域活性化に貢献できる社会的意義」などが挙げられます。しかし、空き家投資は決して「安く買って高く売る」あるいは「高く貸す」だけで成功するような単純なスキームではありません。リフォーム費用がかさみ、結果的に採算が合わなくなるケースや、入居者が決まらずに長期空室に悩まされるオーナーさんも少なくないのです。
「安いから」「儲かるから」といった理由だけで飛びつくと、思わぬリスクが潜んでいることも多いため、成功のためには物件選び、リフォーム・改修計画、そして賃貸経営の3つのステップをしっかりと把握し、それぞれの落とし穴を回避する知識が欠かせません。
この記事では、空き家投資において初心者がつまずきやすいポイントや失敗事例、そして成功へのヒントを具体的に解説していきます。最後までお読みいただくことで、空き家を活用した不動産投資を検討している方にとって必要な注意点と、対策を講じる上でのヒントを得ることができるはずです。ぜひ参考にしてみてください!
物件選びの落とし穴を避ける
立地の重要性
不動産投資において、立地は古今東西を問わず最も重要な要素のひとつです。とりわけ空き家投資では、新築や築浅の物件投資と異なり、すでに築年数を経た建物の不具合リスクが存在しますので、それを上回るだけの魅力がなければ入居者を呼び込むことが難しくなります。だからこそ、まずは「立地」に注目して物件選びをすることが大切です。
賃貸需要を見極める
賃貸需要が見込めるエリアかどうかを見極めるには、以下のような要素をチェックしましょう。
交通アクセス
最寄り駅から徒歩何分以内か、あるいはバス便がどれほど充実しているか。車社会の地域であれば駐車場が確保できるかどうかなども重要です。生活インフラ
スーパーマーケット、コンビニ、病院、役所、学校などの生活に必要な施設がどの程度近くにあるか。特に子育て世帯をターゲットにするなら小中学校への距離は重要視されます。人口動態
人口が増えているエリアなのか、減少しているエリアなのか。自治体の公的データや地域の将来構想を確認すると、将来性もある程度見えてきます。
たとえ地方の物件であっても、近年では都市部からの移住ニーズが見込める地域があります。リモートワークの普及や、地方移住ブームといった社会的変化も加速していますから、「地方=需要がない」と一概には言えなくなってきました。鍵となるのは、その地域にどのような特色や魅力があり、どのような人々が移住を考えているかを把握することです。
周辺環境や治安
空き家を賃貸物件として活用する場合は、入居者が安心して暮らせる環境であることも重要です。特に一戸建てや町家など、隣近所との付き合いが密接な場合は、地域コミュニティの様子や治安を考慮に入れる必要があります。長く賃貸を続けてもらうためには、単に家賃や建物の良し悪しだけでなく、住環境の良さをアピールできることが差別化要因にもなります。
たとえば、地方の過疎化エリアでも、観光地として人気がある地域や、近年注目を集めている移住先ランキング上位の自治体であれば将来的な人口減少リスクをある程度カバーできる場合があります。自治体独自の移住支援策(家賃補助や子育て支援)が手厚いケースもあるので、事前に調べておくと良いでしょう。
物件の状態を見極める
空き家物件は築年数が古いケースが大半を占めます。新築や築浅物件であれば、まだ設備や構造がしっかりしている可能性が高いですが、築古物件となると構造的な問題や老朽化、シロアリ被害、屋根の劣化、雨漏り、耐震性の問題など、多くのリスクが潜んでいます。これらを見逃すと、後々大規模修繕が必要になり、リフォームコストが膨れ上がってしまうことも少なくありません。
物件見学と専門家の同行
購入前の物件見学は、必ず実施しましょう。また、できれば建築士や工務店、古家再生士®といった専門家に同行してもらうのがおすすめです。素人目には問題なさそうに見える壁や床でも、実際には内側の腐食が進んでいたり、基礎部分に重大なひび割れや不陸(ふろく)がある場合があります。
シロアリ被害のチェック
床下や柱を叩いて音を確認してみる、シロアリの「蟻道(ぎどう)」という通り道がないかを確認するなど。雨漏り・屋根の劣化
天井のシミや腐食、屋根材の浮きやズレがないかをチェック。特に瓦屋根はメンテナンスが必要です。基礎のひび割れ
コンクリートの基礎に大きなクラック(亀裂)が入っていないか。髪の毛程度の細いものでも要注意。耐震性の問題
古い木造住宅の場合、耐震基準を満たしていない可能性があります。リフォーム前提での耐震補強が必要かどうかは、大きな費用に直結するポイントです。
設備や給排水の状態
構造以外にも、給排水設備やガス・電気系統がどれくらい使える状態かを確認しないといけません。築古の家屋では、配管が錆びていたり、電気容量が足りない場合もあります。都市ガスではなくプロパンガスの場合は、プロパンガス会社との契約や設備をどうするか検討が必要です。これらは生活の利便性に大きく関わるため、入居者にとっても大きな判断材料となります。
リフォーム費用の適正化
予算オーバーに注意
空き家投資の最大の難関のひとつがリフォーム費用です。中古物件、特に築古の家屋は、取得価格自体は安く抑えられるかもしれません。しかし、蓋を開けてみたら、想定以上に劣化が激しく、購入費用と同等かそれ以上のリフォーム費用がかかることもしばしばあります。
リフォーム費用の試算方法
一般的に、リフォーム費用は以下のような観点で試算します。
最低限の補修費用
雨漏りや基礎のひび割れ、給排水設備などの「命に関わる」「生活に大きく支障がある」箇所の修繕費用。居住空間の整備費用
壁紙・床材の張替え、内装・外装塗装、ドアや窓の修理など、入居者が生活する上で快適さを感じられるレベルにするための費用。バリューアップリフォーム費用
キッチンや浴室、トイレといった水回りのグレードアップ、耐震補強、間取り変更など、付加価値を高めるためのリフォーム費用。
物件の状態によっては、1だけで済む場合もあれば、2や3まで含めて大規模なリノベーションが必要になることもあります。投資として考えるなら、最終的にどれくらいの家賃を得られるか、または売却益を狙うのかによって、リフォームの「投資対効果(ROI)」を見極めることが大事です。
DIYとプロの使い分け
コストを削減するために、一部をDIY(Do It Yourself)で行う投資家の方も多いです。ただし、建築基準法や消防法などの法律が関わる箇所や、電気・水回りといった専門的な工事は資格や技能を要する場合があるため、素人がやると違法になったり、後々大きなトラブルに発展するリスクがあります。そのため、DIYで手が出せる部分と出せない部分を明確に区別し、工事の範囲や段取りを整理しておくことが肝心です。
DIYが可能な主な箇所
クロス(壁紙)の張替え、簡単なペンキ塗り、床のクッションフロア張り替え、庭の雑草処理など。専門家へ依頼すべき箇所
電気配線、ガス設備、給排水設備、耐震補強工事など。
リフォーム計画の立案
リフォームを効率的に行うためには、**「いつまでに」「どこを」「どれだけ直すのか」**を明確に計画書にまとめておくことが重要です。特に、複数箇所の工事が同時並行で進む場合、職人さん同士のスケジュール調整が必要になります。行き当たりばったりの依頼をすると、工期が長引き、無駄なコストがかさむだけでなく、入居募集のタイミングが遅れることにもなりかねません。
必要最低限のリフォームとは?
投資目的で空き家を活用する場合、しばしば勘違いされるのが「新築同様にリフォームすれば高く貸せる」という考え方です。しかし、必要以上に豪華に仕上げても、投資としてのリターンは得られない場合が多いのが現実です。大理石のカウンターキッチンや床暖房など、入居者がそこまで求めていない設備を導入したところで、家賃を極端に上げられるわけではありません。
入居者が求める「清潔感」と「快適さ」
多くの賃貸入居者が最も重視するのは「清潔感」と「快適さ」です。具体的には以下のようなポイントが挙げられます。
水回り設備の機能性と清潔感
キッチン、浴室、トイレ、洗面台などの日常的に使う設備は、多少古くても清潔感があることが大切です。もし致命的な故障や老朽化があれば、そこはしっかりリフォームしたほうが良いでしょう。内装・床のきれいさ
壁紙の汚れや黄ばみ、床の傷みは目立ちやすく、入居希望者の印象を大きく左右します。張り替えが比較的安価にできる部分でもあるので、ここを整えるだけでも物件の印象は大きく変わります。最低限のセキュリティ
古い戸建てだと、窓や扉の鍵が単純な仕組みになっていることも少なくありません。防犯面を少し強化するだけでも、入居者の安心感が高まります。耐震性の確保(必要に応じて)
地域によっては、耐震基準を満たしていることが入居者にとって大きな安心材料となります。特に地震の多い地域であれば、耐震性に不安がある物件は敬遠される可能性が高いです。
過剰リフォームのリスク
過剰なリフォームや設備投資を行うと、回収までに長い年月がかかる可能性があります。例えば、200万円以上かけて高級キッチンを導入しても、想定する家賃アップが月々1万円にも満たない場合は、回収には十数年かかる計算です。投資として考えるなら、同じ金額をかけるのであれば「耐用年数の長い部分」や「入居率を格段に上げる設備」にお金を回すほうが得策です。
賃貸経営のリスク管理
空室リスクを防ぐ
リフォームが完了したら、次はいかに早く入居者を確保するかが焦点となります。空き家投資が軌道に乗るかどうかは、家賃収入が安定的に入るかどうかにかかっているといっても過言ではありません。空室が続けば、その間のローン返済や固定資産税、維持管理費がオーナーの持ち出しになります。
家賃設定と差別化
入居者が物件を探す際には、家賃が相場より高すぎると敬遠されやすくなります。一方、安すぎる設定にすると収益性が下がり、利回りに悪影響が出ます。地域の相場を正確に把握し、同じエリア・同じ築年数帯の他物件と比較しながら適正家賃を決めることが重要です。
また、差別化のポイントとして「ペット可物件」「DIY可物件」「家族向けに庭付き」「駐車場複数台可能」など、物件の特徴を活かして入居者ターゲットを絞り込むのも有効です。近年では在宅ワークが増えているため、防音室を用意したり、小さめの部屋をワークスペースとして活用できるよう工夫したりするオーナーも見られます。
地元の不動産会社との連携
入居者募集では、地元の不動産会社との協力が欠かせません。インターネット広告やチラシ、店頭掲示などの手段をどう活用するかは不動産会社の腕にかかっています。複数の不動産会社に声をかける「一般媒介契約」にする場合もあれば、一社に絞った「専任媒介契約」を結ぶ場合もあります。いずれにせよ、物件の魅力を正確に伝えられる営業マンがいるかどうかが大きな鍵となります。
また、物件のリフォームや修繕箇所などを詳しく伝えておくことで、内見時にしっかりとアピールしてもらいやすくなります。オーナー自らが積極的に不動産会社へ情報を提供し、「こういう方に住んでほしい」「こういう使い方が可能」といった具体的なイメージを共有することが、客付け成功への近道です。
入居者トラブルを回避
賃貸経営で避けて通れないのが、入居者とのトラブルです。特に空き家投資の場合、オーナー自身が離れて暮らしていたり、複数の物件を抱えていたりする場合もありますから、トラブルが起きたときに迅速に対応できる体制を整えておく必要があります。
家賃滞納リスク
家賃の滞納は、オーナーにとって最も厄介な問題の一つです。滞納が長期化すると、キャッシュフローが悪化し、ローン返済が困難になる恐れすらあります。対策としては、以下が挙げられます。
保証会社の利用
最近の賃貸契約では、保証会社の加入を必須とするケースが増えています。保証会社が間に入り、もし家賃が滞納されても一定期間は保証会社が代弁済してくれます。契約前の入居審査
入居希望者の勤務先や年収、過去の滞納歴などをしっかり確認します。身元保証人がいるかどうかもチェックポイントです。
入居者同士や近隣住民とのトラブル
空き家を再生した場合、その周辺住民との付き合いが長いコミュニティであることも多く、入居者が地元のルールや風習を理解しないままだと、騒音やゴミ出しルールなどのトラブルが起きることがあります。
ルールの明文化
物件ごとの細かいルールや、ゴミ出しの曜日・分別方法などを契約時に書面で渡す。地域の行事や自治会への参加案内
地域によっては祭りや寄り合い、清掃活動への参加を求められる場合があります。入居者がスムーズに地域コミュニティに溶け込めるよう、オーナーや管理会社が仲介するのも有効です。
契約書の内容を明確に
賃貸借契約書は、入居者とオーナーの間で生じうるトラブルを回避し、互いの権利義務を明確にするための重要な書類です。家賃の支払方法や遅延時の措置、退去時の原状回復費用の負担、ペット飼育に関するルールなど、想定されるあらゆるケースについて記載しておくことが大切です。不動産会社や司法書士、弁護士にチェックしてもらうことで、漏れや不備を防ぐことができます。
まとめ:空き家投資は「計画的に」
ここまで、空き家再生において気をつけるべき3つのポイント
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- 物件選びの落とし穴を避ける
- リフォーム費用の適正化
- 賃貸経営のリスク管理
――
を詳しく解説してきました。改めて整理すると、空き家投資は「安く買って高く貸す」だけの単純な投資ではなく、物件自体の状態や地域特性、リフォーム費用の見積もり、賃貸経営ノウハウが欠かせない総合的なビジネスです。
- 物件選びでは、立地(交通アクセス・生活インフラ)と構造的な問題の有無を徹底的に調査する。
- リフォームでは、過剰な投資を控え、清潔感や快適性を重視しつつ、費用対効果を冷静に計算する。
- 賃貸経営では、空室リスク・家賃滞納リスクなどを管理し、適正な家賃設定と差別化ポイントを押さえ、不動産会社との連携を密にする。
これらを総合的に行うには、当然ながら専門家の助けも重要です。建築士・工務店による物件診断、不動産会社との連携、さらには税理士や弁護士など、必要に応じて多様なプロの力を借りることで、大きな失敗を回避しやすくなります。
そして、空き家投資の魅力は、物件価値の再生を通じて地域活性化にも貢献できる点にあります。使われなくなっていた家に再び人が住むことで、地域コミュニティの維持や商店街の賑わいにつながる可能性があります。また、オーナーとしても現地の人との交流を深めながら、空き家という眠れる資産を甦らせるプロセスはやりがいを感じることでしょう。
「空き家投資を始めたい!」と思ったら、まずは自分が投資したいエリアを絞り込み、どのような人がその地域に住みたがっているのか、またはどのような需要があるのかをリサーチしてみてください。検討する物件が見つかったら、専門家に物件調査を依頼し、リフォーム費用の見積もりをいくつか取り、無理のない投資計画を立てましょう。
私たち(一社)全国古家再生推進協議会では、空き家や古家の再生に関心のある方へ向けた物件見学ツアーや投資ノウハウを学べるセミナーを定期的に開催しています。実際の事例を見ながら、リフォーム前と後の比較や、リフォーム費用、賃料設定の事例などを詳しく学べるので、「なんとなく難しそう」「何から始めたらいいのかわからない」という方には、非常に参考になる場だと思います。
ぜひ、こうした機会を活用しながら、しっかり知識を身につけてから空き家投資の第一歩を踏み出してみてくださいね。計画的に進めれば、空き家再生はリスクを最小限に抑えながら、安定した収益と地域への貢献という二重のメリットをもたらしてくれます。
参考書籍
『不動産投資入門』【7】
不動産投資全般の基礎がまとまった一冊。空き家再生に直接的な記述は少ないものの、賃貸経営に関する一般的な知識を得るうえで有用。『儲かる!空き家・古家不動産投資入門』【8】
空き家や古家を活用した投資にフォーカスした内容。リフォーム費用や入居者募集の方法など、具体的な情報が多数掲載されている。『地方は宝の山!リスクを極限まで抑えて儲ける空き家・古家不動産投資』【9】
地方での空き家投資事例が中心。地域ごとの特徴や成功例、失敗例などを交えつつ、人口減少地域でも利益を上げるためのノウハウを紹介している。
最後に…
空き家投資は、物件の安さやリフォームの楽しさだけに目を向けてしまうと、大きな落とし穴にハマるリスクがあります。一方で、しっかり調査を行い、専門家と連携し、入念にリフォームや賃貸経営を計画すれば、低リスクで堅実な収益を得られる可能性も大いに秘めています。
何より、長らく放置されてきた物件が再び人の住まいとなることは、社会的にも大きな意味があります。少子高齢化や人口減少が進む日本で、既存の住宅資産を活かして豊かな暮らしを作り出すというのは、今後ますます重要になるでしょう。空き家再生の取り組みは、ただの「投資」という枠を超えて、地域の未来を支える活動とも言えます。
もしこの記事を読んで、空き家投資に少しでも興味を持たれたなら、ぜひ行動を起こしてみてください。最初はセミナーや見学会などで情報収集するところから始めるだけでも、次のステップが見えてきます。実際に物件を見て触れることで、空き家投資の面白さや、リフォーム後のイメージ、費用感や具体的な流れがよりリアルに感じられるようになるはずです。
空き家を再生することは、「ただ物件を買って、古くなったらまた売る」というような一般的な不動産投資とは一線を画します。手間ひまをかける分だけ愛着が湧き、そこに入居する方々の笑顔を思い浮かべながらリフォーム計画を練るのは、投資家にとって何物にも代えがたいやりがいとなるでしょう。
ぜひ、皆さんも空き家投資の可能性を見極め、自らの資産形成と地域の活性化という両面を実現していっていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
空き家投資に関する疑問や不安がありましたら、全国古家再生推進協議会までお気軽にお問い合わせください。皆さんが一歩踏み出し、成功への道を歩んでいくお手伝いができれば光栄です。
それでは、またお会いしましょう!
POST: 2025.02.20